テレワーク ルール作成
テレワークに関するルールづくりとして、①情報セキュリティ方針の作成②労務管理の方法および③テレワーク導入のための教育・研修について解説します。
セキュリティ方針の作成
PDCA を回して、セキュリティ方針の手順に沿った対策・運 用を実施し、取り組んでいることが重要です。
セキュリティの脅威に対して常に確実な対策というものは存在しません。外部からの脅威は手を変え品を変えて、常に変化しますのでその変化を素早く捉えて重大な事故に繋がらないような手段を講じておかなければなりません。
これは全ての分野で言えることです、『小さな変化が分かる』体制造りが必要です。
情報セキュリティ方針の目的
情報を扱う業務に対して、組織として統一のとれた情報セキュリティに関する方針や行 動指針が必要です。そして、その内容を明文化した「情報セキュリティ方針」を作成し ます。テレワーク導入時にも、基本的には組織として統一されている、情報セキュリティ方針の遵守が必須です。
情報セキュリティ対策は画一的なものではなく、企業や組織の持つ情報や組織の規 模、体制によってケースバイケースで異なります。つまり、業務形態、ネットワークやシステムの構成、保 有する情報資産等を踏まえた上で、その内容に見合った情報セキュリティポリシーを作成 しなければなりません、資産の少ない中小企業でもテレワーク導入後に会社のノウハウ等が漏出しなようにしなければなりません。
業務の生産性向上の為に導入したテレワークで会社の「情報資産」が流出してしまったら元の木阿弥です。
情報セキュリティ方針を作成する目的は、企業の情報資産を情報セキュリティの脅 威から守ることですが、その導入や運用を通して従業員の情報セキュリティに対する意識 の向上や、取引先や顧客からの信頼の向上といった二次的なメリットを得ることもできま す。情報資産を共有するすべての従業員が適切な情報セキュリティの意識を持たなけれ ば、ウィルス感染、情報漏洩(ろうえい)等から組織を防御することは困難です。
セキュリティ方針 作成の手順
情報セキュリティポリシーの作成手順は、業態、組織規模、目的、予算、期間等によ って異なります。ここでは、代表的な作成手順を紹介します。
① メンバーの選出
②目的、情報資産の対象範囲、期間、役割分担等の決定
③実行スケジュールの決定
④基本方針の作成
⑤ 情報資産の洗い出し、リスクとその対策の分析
⑥対策基準と実施内容の策定
ここで一番、重要なのがメンバー選出です、又 活動の進め方は下記に記載した問題点解決手法のQCストリー手法が参考になります。
基本方針 作成時のポイント事項
効果的な情報セキュリティ方針を策定するには、以下の点に留意する必要がありま す。
① 守るべき情報資産を明確にする。
② 機密情報を扱う対象者の範囲を明確にする。
③ できる限り具体的に記述する。
④ 社内の状況を踏まえて、実現可能な内容にする。
⑤ 運用や維持体制を考慮しながら策定する。
⑥ 形骸化を避けるために、違反時の罰則を明記する。
⓻ 定期的な社員の教育が必要である旨明記する
⓼定期的に情報セキュリティポリシー内容を見直し、必要に応じて改訂を行う。
*全ての会社の『情報資産』を守る必要はなく、逆に守れません。
余り細部にこだわると重要なことが見逃す恐れがありますので全員で 守るべき情報資産を明確にしてください。
情報セキュリティ方針作成に向けた体制構築
情報セキュリティ方針を作成し運用するには、まず責任者を明確にして、情報セキュ リティ方針作成に携わる人材を組織化することが必要になります。
この組織の活動内 容が情報セキュリティ方針作成、運用の成果に大きく影響するため、企業や組織の実 情や現在の社会状況に見合った情報セキュリティ方針を策定・運用するためには、適 切な人材を確保する必要があります。また、情報セキュリティ方針の品質を高めるため には、外部のコンサルタントや法律の専門家に参加を依頼することもひとつの手段です。
情報セキュリティ方針 内容
情報セキュリティ方針は、「基本方針」、「対策基準」、「実施手順」の 3 つの階層 で構成されることが一般的です。
基本方針には、組織や企業の代表者による「なぜ情報セキュリティが必要であるのか」 や「どのような方針で情報セキュリティを考えるのか」、「顧客情報はどのような方針で取り 扱うのか」といった観点が含まれます。
対策基準には、実際に情報セキュリティ対策の指針を記述します。多くの場合、対 策基準にはどのような対策を行うのかという一般的な規程のみを記述します。
実施手順には、それぞれの対策基準ごとに、実施すべき情報セキュリティ対策の内容 を具体的に手順として記載します。
情報セキュリティ対策基準~セキュリティルールの作成
テレワークの実施にあたって、従業員が端末をオフィスの外に持ち出して業務を行う場 合、懸念される点として、端末そのものの紛失・盗難以外にも、十分なセキュリティが確 保されていない公衆Wi-Fiの使用や不正ソフトウェアのダウンロード等が挙げられます。
端末自体のセキュリティの強度を上げてデータの漏えい等を防ぐこともできますが、まず はテレワークを実施する従業員が、「利用する情報資産の管理責任があること」を自覚し て行動をすることが重要です。そのため、テレワーク時の行動のルールを決めます。たとえば、 利用端末の保管は施錠可能な場所で行う、移動中は端末から手を離さない、社外に書類の持ち出さない、システム 管理者の指定した通信手段で通信する、等があります。
なお、テレワーク実施者だけでなく、情報システム関連の部署・担当者が、定期的にシ ステムのセキュリティチェックをする等の、システム管理者の守るべきルールも作っておくこと で、より強固なセキュリティの実現へつなげることができます。
情報セキュリティの教育
最終的に定めたセキュリ方針やセキュリティルール、情報管理ルールをテレワーク 利用者に遵守するよう求める必要があります。そのため、組織幹部を含む全従業員に情 報セキュリティ教育や研修等を行い、方針とルールの遵守を徹底させます。
サルも教育すれば動物園のサルのように学習して、演技をします、当然、人間の赤ちゃんも教育しなれば言葉を学習できず、話せません、せっかく、苦労して作成した情報管理ルールも教育しなければ水泡に帰します。
情報セキュリティ方針の評価と見直し
情報セキュリティ方針は、運用を開始した後にも、従業員の要求や社会状況の変 化、新たな脅威の発生等に応じて、定期的な評価・見直しが必要です。また、見直しを 行った結果、必要に応じて情報セキュリティ方針を改訂していきます。この作業を継続 的に繰り返すことが、つまりPDCAサークルを回すことが情報セキュリティ対策の向上に役立ちます。 そのためには、定期的 に内部監査や評価等を実施する必要があります。
情報収集
情報セキュリティ上のリスクは、常に変化しているものです。情報セキュリティ対策もその 変化に対応できなければなりません。そのため、情報システム管理部門の中でも常に最 新の情報セキュリティ関連の情報を収集する体制と、その中の小さな変化を検知できる能力が必要です。
評価と監査
収集した情報を参考にして、現在の情報セキュリティポリシーの内容に不足している項 目がないかどうかを評価します。評価のためには、日常的に従業員へのモニタリングを行い、 情報セキュリティ方針が適切に守られているか、有効に機能しているか、等についての 調査、定期的な監査、変動するリスクの分析等を行います。
評価をする際には、情報セキュリティ方針が現場の状況に適合しているか、最新の 法律や企業や組織の現状を踏まえ、情報セキュリティ方針に不備や不足はないか、 等も考慮する必要があります。
見直しと改訂
評価、監査、調査の結果、従業員からの要求に基づいて、情報セキュリティ方針の 見直しと改訂を行います。改訂した情報セキュリティ方針は、再び計画のプロセスを経 て、運用に移していきます。
労務管理 ルール 作成
テレワーク時にも、労働基準法等の労働関係法令を遵守することが不可欠です。初めてテ レワークを導入するときには、テレワーク時の労務管理について確認し、ルールを作成して下さい。
テレワークを導入する場合には、就業規則等にテレワーク勤務に関する規程を定めておく ことが必要です。この場合、就業規則本体に直接規定する場合と、「テレワーク勤務規程」 といった個別の規程を定める場合があります。いずれの場合も、テレワーク勤務に関する規 程を作成・変更した際は、所定の手続を経て、所轄労働基準監督署に届け出ることが必 要です。
テレワーク勤務については、たとえば、次のようなルールが必要です。
・在宅勤務を命じることに関する規程
・在宅勤務用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する規程
・ 通信費等の負担に関する規程
次に労務管理について確認すべきポイント「実施の申請と承認」、「労働時間の管理」、 「業務中のコミュニケーション」、「公正な評価」、「テレワーク時のコスト」について解説します。
テレワーク実施の申請と承認
テレワーク実施の申請と承認は、おおむね以下のプロセスで行うことが考えられます。5W1Hを参考に、現場の現状に即した手順を作成してください。
5W1Hとは?
5W1HとはWho(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)を指し示す言葉です。 5W1Hを意識し文章を構成することで、伝えたい情報の主旨が明確になり、かつ過不足なく伝えることができます。引用:Wikipedia
労働時間の管理
テレワーク時には、従業員が通常の勤務と異なる環境で就業することになります。その ため、労働時間の管理方法について確認し、ルールを決めておくことが必要です。企業と テレワーク実施者間で認識を合わせる必要があります。 既存のルールや ICT 環境をそのまま活用することができる場合は、よりスムーズにテレ ワークを導入することができます。
労働時間の管理には、始業・終業時刻の管理と業務時間中の在席確認の2つのポイントがあります。
テレワーク 始業・終業時刻の管理
従業員の始業・終業時刻を管理するため、始業・終業時刻の報告、連絡、記録の方法を あらかじめ決めておきます、例えば下記のような方法があります。
テレワーク報告の事例
① Eメール
テレワーク実施企業で、最も多く利用されています。 使い慣れている、業務の報告を同時に行いやすい、部署の同僚も記録を共有 できる等の特徴があります。
② 電話
テレワーク実施企業で、Eメールに次いで利用されています。 使い慣れている、時間がかからない、コミュニケーションの時間が取れる等の特徴 があります。ただし、履歴が残らないので勤務時間の記録は別途検討する必要があります。
③勤怠管理ツール(始業・終業時刻等を管理することができるシステム)
出退勤の管理ができるツールを活用して、テレワーク時の始業・終業時刻等を 管理します。大人数を管理しやすく、管理職の負担が軽くなる一方で、部署の 同僚には共有しにくいため、別途共有のための運用ルールを決めておく必要があ ります。
ジョブカン、AKASHI、 IEYASU、jinjer勤怠 ジンジャー、KING OF TIME等 色々な勤怠管理システムが販売されています。
関連記事:勤怠管理ツール 比較
テレワーク労働者の都合に応じた所定労働時間変更
始業・終業時刻を労働基準法に定める法定労働時間(1週40時間、1日8時間)にあわせて 所定労働時間を定めて働くテレワーク労働者が、育児・介護等、私用のために所定労働時間 を短くしたり、始業・終業時間をずらしたりする等、柔軟に変更できるようにすることで、 育児・介護等との両立に資することができます。
ただし、あらかじめ就業規則に規定して おくことが必要です。企業が所定労働時間を一方的に変更することはできません。
テレrワーク 在席確認
始業・終業時刻の確認のほかに、業務時間中に適正に業務が行われているか を管理することが必要な場合もあります。
一方、企業によっては、裁量労働制等は目標管理制度が適正に運用されており、テ レワーク時の 1 日単位の管理は必要がないという場合や、商品・事業企画等の業務で は、必ずしも在席管理が適合しない場合があります。
在席管理の事例
①業務時間中の在席・離席の記録
Eメールや在籍・離席状況を確認することができる管理ツール等によって、始業・終 業時刻に加え、在席・離席の記録を取ります。たとえば、子どもの送迎等を理由に仕 事を中断する場合は、その都度離席の記録を付け、作業に戻った際に在席の記録 を付けます。
②業務時間中のルールを設定する
業務(在席)中は常に電話をとれるようにする、ランダムにPCの画面の記録を取 るといった方法もあります。どのような方法にするかは、労使でよく話し合って決めること が必要です。なお画面の記録取得の目的には、「定期的な在籍確認」、「問題発 生時の追跡」が考えられます。
業務中のコミュニケーション
テレワークでは、離れた場所にいる相手とコミュニケーションをとることになります。必要な 時にコミュニケーションを上手にとり、業務内容の報告と共有をすることができれば、テレワ ーク利用者だけでなくオフィスで仕事をする上司や同僚のストレスが軽減され、また、実施 できる業務の幅も広がります。
テレワーク時にコミュニケーションを取る方法について、あらかじめ検討を行う。
①業務中の連絡方法
テレワークでは、相手の様子が見えないため、連絡を取ることをためらってしまうという声 があります。Eメールや電話といった手段の確保と同時に、連絡を取れる時間の確保が重 要です。
必ず連絡を取れる時間を決めておく、あるいはチャット 等の気軽な連絡を取るための ツールを活用すること等で、テレワーク利用者とオフィスで仕事をする上司や同僚等がスム ーズに連絡を取れる環境を整備します。
②業務内容の報告と共有
テレワーク利用者と上司・同僚等のコミュニケーションのために、業務内容を報告・共有 できるようにすることも重要です。 必要に応じて作業中のファイルや画面を共有しながら会話ができるツール等を活用す ることも有効です。
③技術トラブル時の連絡方法
システムやツールに技術的なトラブルが起こった場合に問い合わせる連絡先を確認して おきます。パソコン、スマホが使用できないので電話番号を事前に確認しておいてください。
テレワーク時の費用
金銭に関するテレワーク時の費用について、確認すべきポイントは以下の3つです。
テレワーク時の給与
給与制度は、業務内容や所定労働時間といった労働条件等に変更がない限り、特 に変更する必要はありません。
基本給
基本給については、「在宅勤務」、「モバイル勤務」や「サテライトオフィス勤務」などのテレワークを利用したからといって変更することはありません。
例えば、在宅勤務を利用すると通勤がなく楽だから」という理由で基本給を下げること等は、合理的な理由のない不利益変更に当たり、このような理由による基本給の変更は認められません。テレワークを利用した場合に変わるのは「働く場所」だけで、業務内容や職種、所定労働時間が同じであれば、基本給を見直す必要はないです。
また、自社で雇用している社員であるにもかかわらず、在宅勤務者は「時間をカウントせず成果で賃金を支払う」といった誤った考えをする経営者がおりますが、在宅勤務者が労働者であることに変わりはなく労働条件のうち変わるのは「働く場所」だけで、業務内容や職種、所定労働時間が同じであれば、時間管理は必要であり、成果のみで賃金を支払うことはできません。
基本給の見直しを考えなければならないのは、在宅勤務を利用する際に現在の業務内容、職種、所定労働時間などの労働条件が変わる場合です。業務内容や職種が同じでも、所定労働時間を長くした
り(短時間勤務からフルタイムに変更等)、短くしたり(育児や介護を目的とした短時間勤務等)する場合のような、労働時間の変更による基本給の見直しは納得のできる措置です。
なお、育児・介護を理由とする在宅勤務で、育児介護休業法に基づき所定労働時間が短くなる場合の「減給又は賞与等」については、会社が定める「育児・介護休業規程」によることになります。
基本給その他の手当も含めた賃金には、在宅勤務者も当然に最低賃金法が適用されます。特に、地域別最低賃金は賃金の実態調査結果などを総合的に勘案して定めるものとされており、2017年度の
発効日時点で958円から737円までと、かなりの幅があります。
「場所にとらわれない柔軟な働き方」というテレワークの特性を活かすことにより、最低賃金の高い地域の企業が最低賃金の低い地域の在宅勤務者を雇うことで、地域創生やコスト削減につながる効果
も考えられます。
ただし、地域別最低賃金は各都道府県内の事業場ごとに適用されることに注意が必要です。例えば、在宅勤務者の就業場所が沖縄県でも、直属の事業場が沖縄県内になければ、沖縄県の最低賃金は適応できません。
割増賃金(残業代)
事業場外みなし労働時間制を適用しているテレワークにおいて、所定労働時間を超えるとして労使協定により「みなし労働時間」を決めている場合は、三六協定の届出と所定労働時間を超える分の割増賃金の支払が必要となります。
このような場合に、「テレワーク勤務手当」などとして一定額を支払っているケ-スがよく見受けら
れますが、この一定額は、月ごとに労働日数が異なる場合の平均を採ってはならないことに注意してください。労働日数の一番多い月をもって一定額とするか、月ごとの労働日数に応じて変動させるか
のいずれかの方法になります。
みなし労働時間制とは、実労働時間の把握が難しい業務に適用される労働時間制度のことです。 … そのような業務に対して、実際に働いた時間とは関係なく、所定労働時間や当該業務を行うために通常要する時間を働いたものとみなして賃金が支払われる制度です。引用:Wikipedia
テレワークにより発生する費用
自宅でテレワークを実施する際に必要な通信費や ICT 機器、光熱費等の費用負担について は、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等で定めておくことが望まれます。特に、 従業員の負担とする場合には、その内容を就業規則に規定しなければなりません。
通信費、情報通信機器費
在宅勤務に係る通信費や情報通信機器等の費用については、テレワークガイドラインでは、
①労使のどちらが負担するか
②事業主が負担する場合は限度額をいくらにするか
③労働者が費用を請求する場合の請求方法をどうするか
などを、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等に定めておくのが望ましいとされています。
パソコンなどの情報通信機器については、セキュリティの観点からも事業主が貸与することが多いものの、在宅勤務やモバイル勤務の際に自宅の電話や個人のスマートフォン、パソコンを使用している場合は、従業員との雇用契約がその負担を包括しているものであればよいですが、そうでない場合は会社の負担割合などについて決めておく必要があります。
水道光熱費
また、利用頻度の多い在宅勤務者の場合、水道光熱費の負担に関しても取決めをしておくことが必要です。自宅の電話料金や水道光熱費について自己使用分と業務使用分か請求明細などにより区分可
能であればその実額を精算することができますが、不明な場合は使用頻度などを考慮して従業員と話し合い、定額の手当(在宅勤務手当等)として支給する方法があります。
在宅勤務手当の支給額については各社様々ですが、週1~2回の頻度で在宅勤務を行う場合、水道光熱費については特に支払っていないとする会社がほとんどです。水道光熱費のみであれば1日数百
円程度であることが多いでしょう。在宅勤務を行う頻度が高い社員には、通勤手当の削減分を在宅勤務手当に充てるなどの方法が採られることもあります。
在宅勤務を導入している企業の人事担当者から「会社に出勤しているとお茶やコーヒーが自由に飲めるのに、在宅勤務を利用した場合は自分で購入しなければならないのでその費用を支出してほし
い」という在宅勤務者からの要望があると聞いたことがあります。
この場合は、単純に費用負担の問題ではなく、在宅勤務の意義(在宅勤務はあくまで働き方の選択肢であり労働者の希望により利用できること)や労働者自身にもたらすメリット等を十分説明し理解さ
せることが重要だと考えます。
テレワークにより不要な手当
たとえば、テレワークの導入によって所属するオフィスに通勤しない場合の通勤手当の 取扱い等、テレワークによって支給しないこととなる手当がある場合は、その取扱いについ て、企業とテレワーク利用者で事前に合意しておく必要があります。
ただし、原則として所属オフィスに出勤しないで行う完全在宅勤務以外のテレワークで は、通勤手当を支給することが一般的です。
その場合、テレワークの頻度が増えて会社に通勤することが少なくなれば、通勤手当を実費支給へと見直すことも考えられます。その目安として、通勤定期代との兼合いから「週3日以上テレワークをする(通勤しない)場合」と定めている企業が多い。
労災の要件と実際
テレワークにおける労災給付については、業務を行う場所がオフィス以外であっても、労災給付の要件は基本的にメインオフィスで業務する場合と同じです。
テレワーク中の傷病で労災認定をめぐって争われた裁判例は、まだないようですが、『テレワーク導入のための労務管理等Q&A集』(厚生労働省、2016)では、「自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案。これは、業務に付随する行為に起因した災害であり、私的行為によるものとも認められないため、業務災害と認められる」という事例が掲載されています。
労災認定では、
① 労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態で起きた災害という「業務遂行性」
② 事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものであり、業務と負傷・疾病などの間に相当因果関係があるという「業務起因性」の2つの要件を満たすことが要求され、労災保険給付の対象になるかどうかは、これらを満たすという原則を踏まえた上で、負傷や疾病が発生した具体的な状況に応じて個別具体的に判断されます。
例えば、自宅で階段を踏み外し怪我をしたケースを想定すると、「仕事関係の郵便物を投函しに行くために階段を下りていた」のであれば、業務遂行性があると判断される可能性は高いものの、「洗
濯物を持って階段を上がっていた」のであれば、私的行為と判断され、業務災害とは認められないと考えられます。
前述のように、メインオフィスでも自宅でも労災保険の支給要件は原則同じです。しかし、在宅勤務の場合は自宅などにおいて一人で業務に従事することが一般的であり、災害状況の現認者もいない
ことから、業務との因果関係の立証がメインオフィス勤務時より困難となる可能性があります。
そのため、就業場所を「自宅のみ」や「自宅の特定の一室」に限定したり「外出禁止」、「在宅勤務中は自動車などへの乗車禁止」などのルールを定めたりして、労災発生防止と発生時の対応に備えている会社もあります。
一方、業務場所を限定せず、より柔軟に働く場所を選択するという考え方の会社もあります。例えば、ある会社では就業場所を限定しないテレワークを大々的に行っていますが、カフェなど公共の場
所でのテレワークに関する注意事項をハンドブックに記載した上で、「上記の事項を厳守したとしても労災が認められない可能性もある」と注意喚起をしています。
時代とともに働く場所をより柔軟にする企業が増え、「カフェなどで生じた業務災害」に関する質問も増えていますが、カフェとは、本来「お茶を飲んで休憩する」という私的行為で利用されるべき場所です。そのような場所で業務を行った場合でも「業務遂行性」「業務起因性」があれば労災保険給付の対象になり得ますが「私的行為ではないこと」を立証する必要が想定されることも考えなければなりません。
無用なトラブルを避けるためには、「業務時間の記録」や「業務進捗の適時報告」など管理体制のルールを定め、業務と私的行為の区分をあらかじめ明確にしておく方法が考えられます。これには、
労災トラブルへの備えだけでなく、過重労働を抑制する効果もあると考えます。併せてテレワーク利用者に労災防止のための安全衛生教育などを行い、健全なテレワーク実施に向けた意識付けを促すこ
とも重要です。
テレワーク導入のための教育・研修
導入のために、単に従業員に分厚い資料を渡したり、形だけの方針や指針を伝えたりす るだけでは、情報セキュリティ方針に則って行動してもらうことはできません。
そのため、情報セキュリティに関する同意書にサインしてもらう、違反時の規程を設ける等 の方法で、情報セキュリティポリシーを意識させる仕組みが必要です。また、情報セキュリティ 診断システム等を利用して、導入した情報セキュリティ対策の効果や情報セキュリティ方針の浸透具合をチェック、テストするというのも効果的です。
すべての従業員がテレワーク時のリスクを理解し、遵守するからこそ、情報セキュリティ方針に意味があり、情報セキュリティ対策が効果的になります。そのような情報セキュリティに 対する意識を従業員一人一人に啓発することが、企業や組織における大切な情報セキュリ ティ対策のひとつなのです。
教育・研修は、テレワークの利用者だけでなく、利用者の周囲(上司・同僚)にも行う 必要があります。
教育・研修の狙い・目的は、以下の3点です。
テレワークの目的・必要性を理解する
なぜ自社がテレワークを実施するのか、その目的と必要性を、テレワーク利用者だけで なく、上司・同僚がよく理解することが重要です。
テレワーク利用者が周囲の理解を得ながら自発的に仕事の進め方を工夫して効果が 得られるようにし、問題が起きた場合には、テレワーク利用者だけでなく、上司・同僚も交 えて積極的に解決する姿勢を持つようにすることが狙いです。
特に、初めてテレワークを導入する場合、利用者や周囲が、テレワークの環境に慣れる までコミュニケーションやツールの操作が思うようにいかない等、さまざまな問題が起こり得ます。そのような際に、テレワークを実際に利用する現場からの積極的な意見や創意工 夫が得られることは、テレワークの推進にとって役立ちます。
テレワーク時の体制について理解する
テレワーク実施の流れと、周囲の体制について理解します。 関連する社内規程や実施の手続のほか、特にテレワーク時の業務管理と評価、コミュ ニケーションの取り方について、利用者やその周囲の疑問を解消しておきます、 テレワークの実施にあたり、実施の承認や勤怠管理、業務管理等は、管理職の理解 が欠かせません。したがって、管理職を対象に、テレワーク利用者の勤怠管理、業務管 理、コミュニケーションの取り方や指導育成の方法について、個別に研修を行うことも良いです。
テレワーク時のツールを操作できるようになる
テレワーク時に使用するツールの操作方法と、技術的なトラブルが発生した場合の問 い合わせ先を確認します。 テレワーク開始時から、なるべく円滑に業務を行えるようにすると同時にセキュリティ上の アクシデントを防止することが狙いです。 新しいツールを導入する場合は、システムを実体験する機会を設けることが有効です。 企業の状況によっては、外部に技術的な事項の教育・研修を依頼することも良いです。
テレワークの導入が進まない理由
テレワークの導入が進まない、あるいは導入しても利用者が増えないなどの原因は様々ですが、
その一つに社員や管理職自身のITの理解力が低いことが挙げられます。
佐賀県のテレワークに関する取組みの詳細は別章で紹介していますが、佐賀県がテレワークを導入した際も、職員や管理職に対し徹底したICTの知識とパソコン操作の研修を実施したことが、テレワークの推進に役立つたといわれています。
また、テレワークの利用者が増えない一番大きな原因といわれているのが、「管理職がテレワークに対して正しい理解をしていないこと」です。例えば、テレワークを導入している企業で実際にあっ
たことですが、社員から「上司がテレワークに強烈な抵抗感を示し、テレワークを利用させてくれない」という苦情を聞いた人事担当者が、上司に制度の利用の拒否をしないよう注意したところ、
「テレワークは災害時などの特別なときにしか使えない制度だ」と言い切ったそうです。上司である管理職自身がこのような理解では、到底働き方の選択肢としてテレワークを有効に利用することは
できません。
まずは、導入や利用の阻害要因となりやすい中間管理職がテレワークを正しく理解するため、専門家を招いたテレワーク研修やマネジメントに関する意識改革のワークショップを行うことが非常に
重要となります。
さらに、導入後は、使用者は、テレワークを行う社員が他の社員と同様の教育・研修を受けられるようにするための配慮が必要です。テレワークの頻度が週に1回(あるいは月に数回)程度であれ
ば、社員が教育・研修を受けられる機会に影響することは少ないかもしれませんが、利用頻度の多い社員は、少なからず影響がありますので代替措置やフォローが必要です。
関連記事:テレワーク導入事例
参考文献:
テレワーク導入・運用の教科書
テレワークで働き方が変わる! テレワーク白書2016
できるテレワーク入門 在宅勤務の基本が身に付く本
コメント