テレワークを導入する際に欠かせないことは『他社に学ぶ』です、しかし、ただ単に他の会社の真似しただけでは成功しないでしょう。
他社が成功した要因を追究し、自社に対応できるベストプラクティスに改善しなければなりません。
ベストプラクティス(英: best practice)ある結果を得るのに最も効率のよい技法、手法、プロセス、活動などのこと。最善慣行、最良慣行と訳されることもある。また、仕事を行うために最も効率のよい技法、手法などがあるという考え方をいう。
国、自治体のテレワーク導入事例
政府は多様で柔軟な働き方を可能にするテレワークの活用を促進
しています。
しかし、国や地方自治体におけるテレワークの活用は、民間企業に比べて大きく遅れをとっています。しかし、一部の行政組織からは民間企業で参考にもなるテレワークの好事例が生まれています。ここでは、テレワークによる働き方改革の取組みが抜きん出ている総務省と佐賀県の事例を紹介します。
又、下記は総務省サイトで記載されている「ICT街づくり推進事業における主な成果事例」「地域情報化の主な成果事例」でのテレワーク参考事例についてのサイトです。
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域情報化の主な成果事例 (PDF:1.65メガバイト)
総務省「行政管理局」のテレワーク 導入事例
霞が関の官庁街は深夜になってもビルの明かりが消えないことから「不夜城」と呼ばれています。業務量に対する人材不足や、府省庁間などの調整業務、国会対応などがその要因です。
このような状況では、職員は日常の業務に追われて中長期的な国家政策を検討するどころではありません。女性の国家公務員の割合が3割を超える中、時間に制約があっても働き続けられるような働
き方への改革が喫緊の課題となっていました。
この状況を打破するために立ち上がったのが、総務省の「行政管理局」です。同局は、行政機関のスリム化や効率化といった「行政改革」を推進する部隊です。同局は自らが省庁の働き方改革のモデ
ルケースとなるべく、大胆なオフィス改革を行い、テレワークの活用にも積極的に取り組んでいます。
旧オフィスの課題~紙中心で仕事を行う文化
役所では、会議、打合わせ、上司への説明などのあらゆる業務が紙で行われています。事前に人数分の資料を印刷し、ホチキス止めしておく必要があり、修正が入るたびに印刷をし直すなど、大きな手間になっていました。
これらの書類は個人机の上に壁のように積み上げられており、周囲とのコミュニケーションを取りづらくさせていました。
旧オフィスの課題~席の配置、レイアウト
役所に限らず、民間でも、管理職が窓側の個人机に座り、各チームメンバーは役職順に縦一列に座るという配置が多く見受けられます。しかし、この配置では管理職との距離が遠く、話しかけにくい雰囲気がありました。また書類や仕切りに挟まれた座席構成では、チーム内で打合わせがしづらくわざわざ打合わせスペースを確保する必要がありました。
改善案 ペーパーレス化の促進
オフィス改革後は、個人机を廃止しチーム間でのコミュニケーションを活性化させるべく、チーム型テーブルを導入しています。チーム全員が上座や下座の概念にとらわれることなく一つのテーブルを囲むことで、情報共有やコミュニケーションが容易になりました。
又、従来の紙で管理していた情報は、共有フォルダなどでの電子管理を徹底したことにより、机周りの文書を大幅に減らすことに成功しました、さらに、大型ディスプレイを活用することでペーパーレス打合せも実現しています。
行政管理局 テレワーク 導入効果
行政管理局ではペーパーレス化で資料の電子化が徹底されたため、パソコンさえあればどこからでも情報にアクセスできる環境が整いました。パソコンを持ち運びながら仕事を行うスタイルが定着したことで、スムーズに在宅勤務への移行もできています。
例えば、行政管理局における2016年度の実績では74人(管理職含む)が問題なく在宅勤務を実施しており、総務省の中でもテレワークの先進部署になっています。
行政管理局 テレワーク 導入ツール
総務省では、自宅からメールや省内の共有フォルダ、電子決裁システムなどが問題なく利用できるシステム環境が整備されています。
・在席確認、チャット、Webテレビ会議の機能を備えたSkype for Business導入(2013年4月)
・高いセキュリティの下、職場パソコンを持ち帰らずに自宅のパソコンから職場システムに接続できる「USBシンクライアント」導入(2014年7月)
・Skype for Businessを総務省の全職員約5,000人に導入 (2015年3月)
・Skype for BusinessのWebテレビ会議機能拡充(100人参加、省外参加、資料の共有) (2015年3月)
動画 「働く、が変わる。TeleWork」~テレワーク導入事例:総務省編
総務省のテレワーク導入事例をご紹介しています。
佐賀県庁が実践するテレワーク導入事例
地方自治体では、佐賀県のテレワークに注目が集まっています。
同県は県民への分かりやすい説明や迅速な対応など行政サービスの質の向上、災害時等の対応、業務効率化などを図り「県民サービスを向上させること」を目的として、在宅勤務、サテライトオフィス
勤務、モバイルワークを含む全庁的なテレワークを実施しています。
同県は、この取組みにより日本テレワーク協会が主催する第16回(2015年)テレワーク推進賞の会長賞を受賞しています。
佐賀県庁のテレワーク制度概要
在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス(テレワークでどこでも県庁を実現)
対象者:佐賀県庁全職員(約4,000人)
労働時間管理
2014年10月から、通常の労働時間制を適用。在宅勤務中に育児又は介護をする場合は、職場長の承認を受けて育児等の時間分の勤務時間を延長するなど、勤務時間の割振りを変更可能にした。
勤怠管理
在宅勤務・サテライトオフィス勤務の場合は、職場長などに勤務の開始と終了をメールで報告することとし、実施予定の(又は実施した)業務内容を報告することとしている。さらに、在宅勤務者の状況をいつでも確認できるよう、在席状況やビデオ会議ができるツールを採用。いつでも画面を通じてコミュニケーションが取れるようにしている。
佐賀県庁のテレワーク導入時のポイント
福利厚生から経営戦略としてのテレワークへ
佐賀県は、都道府県としては全国に先駆けて2008年から育児・介護を行う職員を対象に在宅勤務制度を導入していました。 2010年からは「新型インフルエンザ業務継続計画」の策定をきっかけに、対象者の要件を撤廃し誰でも制度を利用できるよう にしましたが、この時点では毎年20人前後の利用にとどまっていました。
2013年からはテレワークを福利厚生ではなく経営戦略として推進し、全職員を巻き込んだ働き方改革が実現しました。
抜本的なICTインフラの整備
2013年から、在宅勤務に加えて配属職場以外でも勤務できるよう県内の複数の庁舎等を活用し、サテライトオフィスを置いています。
さらに2014年からは在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイルワークを含めてテレワークの全庁展開を図るための基盤として、タブレット端末1,000台を増設整備し、いつもと同じ仕事を出張先でもどこでもできる環境をつくり、現場を第一に行政サービスの質の向上を図ることを目指しています。
佐賀県庁のテレワークの導入効果
在宅勤務・サテライトオフィス勤務について
2016年の実績として、在宅勤務はのべ2,800回以上、サテライトオフィス勤務は800回以上の利用がありました。職員からはワークライフバランスが向上したといった意見が多数寄せられており、多角的な働き方の実現や業務継続の確保にも、欠かせない働き方になっています。
・育児・介護のために仕事を辞めずに済んだ。
・地域活動に参加できるようになった。
・幼稚園の送迎を配偶者に代わってできるようになった。
・子どもの急な病気の時でも子どものそばで仕事ができた。
モバイルワークについて
モバイルワークによって、県民サービスの向上と業務の効率化の2つが実現できた。
・農業改良普及センターでの業務にてモバイルワーク導入後は、現場で農家の方から質問や相談が寄せられたときに、手元に資料がない等により事務所に持ち帰って対応した回数が、1月当たり約49%減少し、その場ですぐに対応できた回数が増加した。
・危機管理・報道課にて夜間や休日に災害情報を県のホームページに掲載する必要が出たときに、登庁せず自宅からタブレッド端末で更新できるようになった。これにより迅速に県民の方に情報提供ができるようになった。
ものづくり産業課にて出張時に行う企業との企業活動の支援や新産業の創出等に関する打合わせ等の内容を、その場で夕ブレッド端末に入力できるようになり、出張後の復命書の作成時間が約2時間から約1時間へと半分になった。
・広報広聴課にて東京オフィスにおける首都圏等での情報発信について、移動中や次の訪問先との約束までの待ち時間などのすき間時間を活用してメールを確認したり返信したりした回数が、1月当たり10回から30回へと3倍に増え、待機時間、移動時間を有効に使用でき、トータル的な業務時間の短縮ができた。
参考:佐賀県のICT利活用事例
動画 佐賀県が実践するワークスタイル変革
佐賀県職員がシスコ コラボレーション ソリューションを用いて実践するテレワークやモバイルワークなどフレキシブルな働き方を紹介します。
全国に先駆けてテレワークの取り組みを始めた佐賀県庁だったが、多くの職員が利用を敬遠するという状況に陥っていた。そうした中、民間企業から佐賀県CIOに就任した森本登志男氏を中心に、本格的なテレワーク推進プロジェクトが立ち上がった。今では約4000人の全職員が利用するまでに至った。
民間のテレワーク導入事例
ここでは民間のテレワーク導入事例の良い事例を紹介します。
民間のテレワーク導入の目的はテレワークにより、創出した時間をワークとライフの質の向上を図るとともに時間当たり生産性やアウトプットマネジメント力を向上させるためです。
リクルートマーケティングパートナース (広告・出版業)
同社は、結婚情報メディア「ゼクシイ」や中古車情報メディア「カーセンサー」など様々なライフイベントに関わる事業を展開しています。 2014年より全社をあげた働き方改革に取り組んでおり、
2015年10月には全従業員約1,200名を対象に、一斉にテレワーク(同社ではリモートワークと呼称)を導入しました。
2015年当時、企業の多くは育児・介護を行う人を対象に小規模でテレワークの導入をスタートさせていたため、同社の取組みは大きな注目を集めました。
同社は、テレワークによる働き方改革を成功させるために、経営トップから全社員へのスピーチ、トップダウンによるオフィスのフリーアドレス化やオープンなワーキングスペースの増設、ICTツールの整備など、様々な工夫をしています。これらの取組みが評価され、日本テレワーク協会が主催する第16回(2015年)テレワーク推進賞で会長賞を受賞しています。
同社が全従業員対象のテレワークを導入した背景には次の3つの理由があります。
旧オフィスの課題~
①従業員の半数以上を占める営業職の営業行動を効率化するために移動時間の短縮が大きな課題となっていた。
②従業員にワーキングマザーが増加したことで在宅勤務制度などの利用が大幅に広がっていた。
③中途入社のエンジニア職の中には在宅勤務などの新しい働き方への知見や経験をもっているエンジニアが多く、優秀なエンジニアを継続採用するためには、ニーズを満たす必要があった。
リモートワークの概要
同社ではリモートワークの裁量は組織長(グループマネージャー)に委ねられています。リモートワークが可能と判断された従業員は、個人の裁量で生産性の高い働き方を柔軟に選択することができます。
対象者:全従業員(アルバイト・派遣・入社半年未満など一部は除く)
利用条件:利用日数や終日・部分利用など、本人が自由に設定できる(週1日以上は出社を必要としている)
勤務場所:自分以外の人間が業務用端末を操作できない/のぞき見されない場所であれば、自宅・カフェ・図書館など様々な場所でリモートワークが可能(出張・業務命令による外出時をのぞき、出社を指示された際に2時間以内に急行できる場所であればOK)
労務管理:就業ルールは現行制度に従う
・メール・Googleバングアウトなどによる所属組織内へ の業務開始/終了連絡を必須とする。
・労働時間は既存の労働時間管理システムを利用し自己申告の上、所属長が承認する。
・深夜(午後10時~翌日午前5時)、休日労働は基本的に禁止。深夜
・休日労働する場合は事前の所属長への申請・承認が必要。
テレワーク 導入時のポイント
トップが従業員全員に直接「本気」を伝える。
2015年4月に山口社長より経営の最重要戦略であるワークスタイル変革について全従業員にスピーチを行っています。社長の「本気」を伝えることが従業員の意識改革のスタートになりました。
さらに、現場のキーマンである全社約100名の組織長(現場責任者:グループマネージャー)が集まる全国組織長会議でもリモートワークに関する社長の考えを伝えています。この会議は数か月にかけて実施され、ワークスタイル変革やリモートワークの実施に向けた意志統一を図りました。
ICTの有効活用
同社ではリモートワークのトライアル時から従業員の声を積極的に吸い上げ、ICT環境の整備に取り組んできました。
①リモート中は、『ちょっといいですか?』といった気軽なコミュニケーションが少なくなってしまう ⇒ Googleハングアウトを導入。
②リモート中は社内の共有ドライブにアクセスできないため必要な書類を取り出せない。
⇒ Googleドライブを導入.グラウトストレージの導入により、リモートワーク中も共有フォルダ・共有ファイルへアクセスできるようにした。
③社外で印刷できないので、会社に戻ってプリントアウトしなければならない。
⇒ ローソンやファミリーマートなどのコンビニエンスストアで印刷できるシャープのネットワークプリントサービスforBizを法人契約。
⑤社外では事業システムにアクセスできないので、リモートできない
⇒ 社外でも事業システムにアクセスできるように全従業員にVPN(Virtual Private Network)接続権限を付与した。
⑥新しいITはよく分からないので触りたくない
⇒ Googleハングアウト、ドライブ(=Google apps)やネットワークプリントサービスのアカウントは、ワークスタイル変革プロジェクトで一括付与し、現場での導入、運用不可を極力減らした。
リモートワーク導入の効果
①生産性が向上した⇒理由:移動時間削減、モチベーション向上、計画的に行動。
②労働時間が減少した⇒理由:集中できる、移動時間削減
③会議時間が減少した⇒理由:計画的に事前準備できる。
動画 リクルートマーケティングパートナーズ テレワーク
全従業員がイキイキと働けるように、リモートワークや働き方改革などにも力を入れています。
ネットワンシステムズ株式会社(情報通信業)
同社は、世界最先端の技術を採り入れた情報通信インフラの構築を行っています。同社では経営トップが働き方改革を重要な経営戦略と位置付け、「生産性の向上」「社員満足度の向上」「顧客満足度
の向上」を目指して「テレワークとICT活用を組み合わせた働き方改革」に取り組んでいます。
同社は、企業の模範となる取組みをしたことが評価され、2015年度厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)では厚生労働大臣賞「特別奨励賞」を受賞しています。また2017年度には、人事部長の下田氏が雇用型テレワークの普及・推進に貢献したことが評価され、輝くテレワーク賞の「個人賞」を受賞しています。この他にも日本テレワーク協会主催の「テレワーク推進賞」ほか、様々な賞を受賞しています。
働き方改革のための事業戦略
働き方改革を推進する上で、「なくす」、「減らす」、「増やす」、「創る」の4つのテーマに合った戦略を立案し、それらを実現するための制度改革、活動の推進を実行しています。
働き方改革の中核となる3つの人事制度
働き方改革を加速させる戦略として、3つの人事施策を実施しています。
①働く「場所」を工夫する
「テレワーク制度」で移動を減らして集中する時間を増やす
②働く「時間」を工夫する
「フレックスタイム制度」で1から月単位で柔軟に働く時間を調整できるようにする。
③働く「時間帯」を工夫する
「シフト勤務制度」で24時間、365日、夜間対応もある中、働く時間を選べるようにする。
テレワーク導入時のポイント
①部門横断型のプロジェクトチームを編成
テレワーク制度導入時には、部門横断のワークスタイルイノベーションプロジェクト(人事部、プラットフォーム部、ビジネス推進本部、広報室)を編成。
ワークスタイル変革の推進を目的に、従来の情報システム部と総務部(ファシリティ)の機能をプラットフォームに統合したことで活動が加速しました。
現在は、人事部と情報システム部、広報室を同一の経営企画本部内に併設し、それぞれが密接にコラボレーションをしながらテレワークのさらなる推進を図っています。
②従業員への教育・研修機会の提供
経営トップ自らが全社MTGやビデオメッセージで働き方改革を促すほか、従業員の意識変革を促すためのガイドブックの策定、意見交換会、研修など様々な施策を打っています。
テレワーク導入の効果
売上の伸長にもかかわらず残業削減効果をあげている(2014年度はERP刷新の影響で一時的に増加)
・自分にとって効率の良い方法で働けることで高いアウトプット満足度を維持している
・「好きなだけ働いてしまう」社員を減らすために過重労働者比率も重視している
・社員の半数以上が在宅勤務を活用している
・全社員の在宅勤務総日数は5年間で4.5倍となり、確実にテレワークのすそ野が拡がっている
動画 ネットワンが挑戦する”働き方革命”
生産性を高める新しい働き方とはなにか?
ネットワングループは、ICT利活用のプロ集団として、自ら実践しているノウハウを紹介。
参考文献:
テレワーク導入・運用の教科書
テレワークで働き方が変わる! テレワーク白書2016
できるテレワーク入門 在宅勤務の基本が身に付く本
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