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食品工場の生産管理 改善

食品工場 分業2食品工場の改善
分業のムダ

食品工場の生産性

目本の食糧自給率が低いことや農業の生産性が低いことは、大きな社会問題として取り上げられている。しかしながら、その農産物や水産物を主要原料とする、食品製造業に関しては「生産性が低い」として取り上げられることはほとんどない。
その為、残念ながら食品業界関係者ですら、食品製造業の生産性が、他の製造業と比べて極めて低いことは、余り認識がないのが現実ではないだろうか。

工業統計表を見ると、日本産業分類の大分類である製造業に、食品製造業は中分類に分類されている。さらにその小分類をみると、畜産食料品、水産食料品、野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品、調味料、糖類、精穀・製粉、パン・菓子、動植物油脂、その他の食料品などの工場があげられていて、これらが食品工場ということになろう。
しかし、これ以外にも中分類には、飲料・たばこ・飼料製造業というのがあり、その中に清涼飲料、酒類、茶・コーヒー、たばこ、製氷の各製造業というのがある。さらに、化学工業という中分類には、香料・ゼラチン製造業があり、これらの工場も通念に従って、食品工場として捉える。
このように食品工場とされるものは、極めて幅広い領域を含んでおり、これらの工場すべてを、この本では、食品工場とする。
ところで「生産性」とは如何なるものであろうか。
生産とは、「人(労働)・設備・物(原料など)・金に情報を加え、顧客にとって有益な商品を生み出す、付加価値を高める活動」と定義されている。従って効率の良い生産とは、投入される労働、設備、原料費などの量と、生産された生産物の量の関係が良好な事であると言える。

一般的に生産性という場合は、労働生産性のことを指すことが多い。従って生産性が良いということは、[投人された労働力が効率良く生産に利用されているという事になる。そしてこの労働生産性の向上は、産業に競争力を付与するので、国内の雇用確保のためにも極めて大切である。
そう考えると、食品製造業は製造業中、最大の110万人以上の従業員が従事する製造業最大の雇用の場である。これを守るためにも生産性の向上は重要である。さらに、この分野は、日本の伝統的食文化を守る役割もあるので、食品工場の存在の意義は、雇用や経済の問題だけではなく、文化的にも極めて大きい。

何故、日本の食品製造業は生産性が低いのか?

国際競争と人口増加

食品製造業の生産性はなぜ低いのであろうか。その理由の一つは食品製造業が国際競争に晒されることなく、国内市場を対象とし、戦後からの人口の増加によって右肩上がりに発展してきたからと考えられる。加えて種々の法律等で、政府により保護されてきた面もある。
つまり、人口の増加と経済の拡大に従って、食品の消費量が自然と増えたため、その消費量拡大に応じて生産設備を導人していけば、それほど生産性を気にせずとも、利益を上げることができたのだ。
しかし2004年をピークに、日本の人口は減少し始めた。人目が減少し胃袋の数が減れば、食品の消費が増加することはない。特に生産人口、若年者人口が減少することにより一人当りの消費量も減り、近年のデフレ傾向で食品の販売価格も徐々に低下しており、労働集約的な食品産業にとって、今後厳しいコスト状況が続くことは否めない。となると、何らかの手を打っていかないと苦しい状況を招くことになる。

 

大企業の影響力

日本の産業は中小企業によって、支えられていると言われている。多くの製造業の場合、大企業が最終製品を作り、中小企業がその部品を作るという構造にある。
いわゆる元受と下請構造である。日本の経済を牽引する、自動車産業や電機産業はこのような二層構造にあり、以前は系列の弊害が発生したこともある。
しかし、最終製品を作る大企業は、厳しい国際競争に揉まれているため、戦後の早い時期から生産性の向上に取り組み、それは、トヨタ生産方式、TQC活動、デミング賞などを生み出した。大企業は、その生産性を向上する努力をしながら、勝ち残るために下請企業(協力会社)に技術や品質管理、生産性の向上を指導してきた。このことが業界全体のレベルアップにつながり、自動車産業や、電機産業の国際競争力を増強させた。
しかしながら、食品製造業の場合は、小規模であっても独立した生産をしており、中小企業が系列化されることは少なかった。つまり、自動車、電機のように大企業の高い技術や、生産性に関する技術的影響(指導)を、受ける機会が少なかった事がが低迷している、原因の一つとして考えられる。

 

伝統的職人体質

食品産業を除くほとんどの製造業は、明治以降に大きく発展した産業である。それに対して食品製造業は、かなり昔からあった。

 

おそらく江戸時代には、製造業の中でも最大級のものであったであろう。そのために、食品製造業は非常に古い伝統をもち、古い暖簾を誇る企業が多く、従来からの職人体質をより多く残している。
科学的な品質管理や生産管理には、種々の条件や情報の計量化・数値化が必要であるが、職人気質という古い体質を残す食品製造業では、経験と勘が重要視され、長い間これらの条件や情報の計量化・数値化は軽視されてきた。これが食品製造業への経営工学的発想の導人の遅れの一因ではないだろうか。

 

食品生産経営工学の欠如

もう一つ食品製造業の低生産性の原因として無視できないのは、食品製造業領域の生産性向上に、科学的に取り組んだ研究者・実務者が、少なかったということである。
生産管理学の研究分野は、主に工学の経営工学と、経済学の経営学に属する学科の研究対象であるが、食品製造業は学問領域としては農学に属しており、経営工学の研究者で食品製造業の生産に興味を持つものが、少ないのは自然の成り行きであろう。

 

農業経済学の領域では、食糧問題、農業・農村問題、流通が主たる研究テーマであり、食品製造業の生産性に関する研究は少ない。経済学の領域では、経済的規模の大きい自動車産業が主たる研究対象である。
これまで主に組立型の製造業を対象としてきた、従来の経営工学にとっては発酵・変質・変敗等の経時的変化の性状を持つ食品を取り扱うプロセス型の食品製造業は、取り組みにくい研究対象であろう。また食品製造学(農芸化学)分野の多くの研究者の興昧は、専ら生物化学領域の食物、或いはその原料中の物質(例えば、酵素、遺伝子など)、もしくはその加工による成分変化(香りなど)などの研究にあり、食品工場の効率的生産を目的とする生産管理や、生産性向上を研究対象とする研究者は少ない。

 

そのため食品工場の生産管理や生産性向上を論じた論文や書物が少ないのは当然の結果である。このようなことが原因となり、食品工場に対する生産管理学の効果的な導入は遅れた。

 

食品工場の生産性の実態

パンエ場はプロセス型食品工場の中でも、比較的に機械化が進んでいる工場ではあるが、一般的な製造業と比べると、効率的な生産ができているとは言えない。

 

例えば、食パンラインの場合、一般的に実際に生産している製造のメイクスパン*のうち、加工時間は70~90%で、段取り時間(正味の段取り時間+アイドリングタイム〔生産設備が遊休状態になる〕)は、30~10%であった。

 

短納期多品種少量生産の代表的なものである、菓子パン類の加工時間は60~70%、段取り時問は40~30%にも及ぶ。これは同じ労働集約型の電機製造業のライン稼働率と比べてかなり低い。
このように食品工場の操業中の正味の加工時間は想像以上に短い。このようにメイクスパンおける、段取り時間が相当な割合を占める傾向は、機械化された製麺工場、菓子工場、豆腐工場、蒟蒻工場、水産練り製品工場など、多くの食品製造業にも当てはまる。しかし現実には工場管理者に、この長いアイドリングタイムに対する問題意識はあまりなく、実加工時間や段取り時間を、正確に把握している工場は少ない。

 

*メイクスパン:スケジュールの最も早い作業開始時刻から最も遅い作業終了時刻までの時間の長さ。

 

食品製造業の生産の推移

図表1は食品製造業の事業所数・従業員数・製品出荷額の推移である。 1994年の溝は統計的不備である。製造業は1990年頃のバブルの崩壊・円高と共にピークアウトしたが、国内市場を対象とする食品製造業の製品出荷額は、国際経済の影響を受けにくいためか、その後10年近く微増を続けた。

食品工場の生産性 推移

食品工場の生産性 推移

図に示される期間、製造業の製品出荷額は景気の変動に合わせて、鋸の刃のように上下しているが、食品製造業のそれは比較的な滑らかで、食品製造業が景気の影響を受けづらいことを示している。 2000年頃からデフレ経済になり、2005年から日本の人口は減少傾向になり、中若年層が減少したためも重なり、製品出荷額は減少に転じているが、近年若干回復しつつある。
食品製造業の事業所数は、戦後15年くらいでピークに達した。重化学工業に比べて設備投資も少なく、国際的な競争もなく技術的にも参入しやすかったのか、製造業全般より戦後早く工場数が増加した。その後1960年頃にはピークに達し、その後コンスタントに減少、現在の事業所数はピークに比べて3分の2くらいになっている。
大きく異なるのは従業員数である。製造業では1970年頃にピークに達し、その後漸減しているが、食品製造業は1998年頃まで増加し続けた。その後停滞微減状態であったが最近やや増加している。

 

事業所数は減少したにも拘わらず、従業員数は増加した。これは食品製造業の生産性が低いままであることが原因である。
雇用の面では、最近の厳しい雇用状況の中で、食品製造業が雇用を維持していることは、日本の雇用環境に貢献しているが、出荷金額の減少した時も雇用が減らず、生産性が低下していったことは国際的な産業競争力の面では問題である。
製造業は出荷額の低下に対して、従業員数の減少によりその生産性を微増させてきたが、食品製造業では出荷金額が減少しているのも関わらず、従業員数はほとんど変化がなく、その為に付加価値額/人はピークの1994年の804万円に比べて、最近は約750万円付近に停滞しており約7%減少している。

 

従って、製造業全体では約20%の生産性の向上があるにも拘わらず、食品製造業では約7%も生産性が低下している。これは統計上の分類による可能性もあるが、食品製造業の生産性は製造業中最も低いものであり、その上生産性向上が低下している現実に対して、食品製造業界として問題意識を持ち、生産性の回復と向上に努めなければならない。

動画 食品工場 カイゼン事例

改善事例の実写映像から「改善定石」を パワーポイントをフル活用して解説!
*不良検知の自動化
*補助具活用

 

 

*食品工場のカイゼンについては下記の文献に色々な活動事例等が更に詳細に記載されています。

 

参考文献:

金をかけずにすぐできる!食品工場改善入門  小杉 直輝 (著)
食品工場のトヨタ生産方式  弘中 泰雅 (著)
続 食品工場改善入門  小杉 直輝 (著)

 

 

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