トヨタ生産方式の全体像
トヨタ生産方式は、「ジャストーインータイム」と「自働化」の2本の柱から成リ立っています。
ジャストーインータイムとは、「必要なモノを、必要なときに、必要な量だけつくること」を意味します。具体的には、後工程が前工程に必要なモノを、必要なときに、必要な量だけ取リに行くことです。
このことにより、前工程は引き取られた過不足分だけつくることとなり、不要な在庫が発生しません。
この方式は、平準化生産が前提となります。
自働化とは、「ニンベンのついた自動化」ともいわれ、人間の知恵を機械に組み込んだものです。不具合が生じたら、機械が自動的に不具合を監視、管理することです。
具体例として、不良品が発生したとき、自動停止装置付機械が自動的に機械を停止して、不良品が前工程から後工程に流れないようにし、後工程でのトラブルをなくすことなどです。
逆に、「ニンベンのつかない自動化」は、不具合が発生しても動き続けるため、多量の不良品や機械トラブルにつながります。
不具合が生じたら、ただちに機械を止め、原因究明をすることは、現場主義不良退治(不良品を見る、不良発生状況を観察する等)につながり、トラブル改善が容易になります。
この方法だと、機械に人が常についている必要もなく、改善も進むので省人化が可能になリます。
2本の柱を中心としたトヨタ生産方式は、下図のとおりです。富士山に、何の訓練もない人が一気に登れないように、トヨタ生産方式は長い年月をかけ、組織ぐるみでしくみをつくり、改善のできる人を育ててきた結果、小さなムダでも排除できる体質が育っているのです。
トヨタ生産方式の目的
企業は、利益を出さないと存続できません。では、利益とは何かをあらためて考えてみましよう。原価の構成は、下図のとおりです。
さらに、製造原価の構成は、製造原価の理解を容易にするため簡略化したものです。
製造原価のまま販売したのでは、設備投資もできませんし、賃上げにも対応できません。販売するときは、総原価に利益を加える必要があります。これが販売価格(売価)となリます。
つまり、利益を上げるためのメカニズムは、次の3通りになるということが分かります。
①販売価格(売価)を上げる
②数多くつくり売る(量産効果)
③コストダウン(製造原価を下げる)
ところが、競争が激しい製品では、値下げはあっても売値を上げるのは非常に困難です。また、数多くつくり売るといっても、モノが行きわたっている今の時代には、大きな期待はできません。
そうなると、残された道は、コストダウンです。
現在、日本企業がコストダウンに血まなこになっているのは、このためです。
トヨタ生産方式は、コストダウンを達成するために、製造原価はもちろんのこと、トヨタ独特のしくみの中で、「7つのムダ」)を排除していくところに特色があリます。
また、”品質は工程でつくリ込む”という体制が徹底しているため、コストダウンが実現したうえに、高品質の製品をつくることができるのです。
トヨタの高収益の秘密
モノが売れた時代、企業はこぞって設備投資を行い、「設備中心の量産化によるモノづくり」を行いました。これに対し、トヨタは「量産化を図るときも、あくまでも人が中心になるモノづくり」を進めてきました。
設備中心の場合、設備を導人すると、短期的には成果を得ることができるのですが、老朽化すると設備業者への依存度が高くなり、弾力的な対応がしにくくなる可能性があリます。
人中心の場合、人は設備と違い、即効性には欠けますが、多品種少量生産にも弾力的に対応でき、長期的に見ると、どんどん付加価値を生み出していきます。トヨタ生産方式では、人を中心とした改善からさまざまな手法が生まれてきています。
トヨタが高収益企業であるのは、以下のように「売価から原価を引いたものが利益であり、売価はお客様が決めるもの」という考え方が徹底しているからです。
利益=売価ー原価
他社の製品が自社の製品よリ安く、品質もよかった場合、当然、お客様は他社の製品を買うでしょう。
そこで、お客様に買つてもらうためには、売価を他社よリ安くする必要があリます。このとき、売価が原価よリ低くなれば、逆に損失になります。利益を出したかったら、原価を売価以下に下げなければならず、さらによリ多くの利益を望むのなら、ムダを徹底的に排除し、原価を下げる努力が必要です。
そして、ムダの徹底排除を可能にするのが、人の知恵なのです。
ムダを徹底排除することの利点
マラソンでは体を左右に揺らしたり、ぴょんぴょん跳ねて走つている人は、最初は順調でもフォームにムダが多く、体力的にムリなのか、最後までもたない人が多いようです。
また、前に行つたり後ろに行つたリ、ムラのある人も結果は芳しくあリません。
このムダームリームラを「3ム」といいます。「3ム」の逆が効率(能率)で、効率の良いフォーム・走法で、一定のリズムを守つて走つている人が、最終的には勝利を得る確率が高いようです。
モノづくリも技術の差でいくらでも原価を下げ、品質をし同上させることは可能です。「3ム」はムリ、ムダ、ムラですが、トヨタは独自に「7つのムダ」に分け、徹底したムダの排除(ムダ取リ)で高品質、高収益企業になっています。
利益の出ていない企業に行くと、ムダを排除するといっても、
①人がいない
②時間がない
③職場体質が育っていないなど、
ムダを排除できない理由が山のように出てきます。しかし、よく見てみると、それはムダを排除する能力がないだけであることが分かります。
トヨタは、このムダを容易に見えるようにする技術がすぐれているのです。そして、そのムダを排除するシステムが徹底しているのです。
下図はムダを徹底して排除したときの事例です。
4工場ともムダが見られ、A工場は「ムダ排除の技術」を導人したときは、就業工数の52%し
か活用しておらず、良いと思われたDエ場でも32%のムダがあるのです。それが3年ほどで2倍近くの作業能率になっています。ムダを見る目が育つと、気づかなかったムダがいかに多いかが分かってくるでしょう。
真の能率と見かけの能率
生産活動の有効性を評価する尺度が「能率」です。能率の表し方はさまざまですが、人の能率は、生産数量÷人数で表現することができます。
一般に能率を上げる場合、機械の台数や人数を増やしたりして、分子の生産数量を上げます。
たとえば、ある製品100個を10人でつくっているとき、20%の能率向上といっても、2通りのやり方が考えられます。
1つは、人や機械台数を増やして能率を上げる、比較的容易な方法です。もう1つは、人を減らし改善して能率を上げる方法で、工夫と努力を必要とします。
しかし、お客様の必要な数量が100個の場合、能率を上げて100個以上つくってもムダになります。
計算上の能率を向上させても、販売に関係なく生産量を増やしているだけのものは、「見かけの能率」といって、トヨタではやってはいけないことになっています。
一方、100個を8人でやることによって、20%の能率が向上した場合は、売れる数量を現有の人数と設備で生産することにつながり、実質的な原価低減に結びつきますので、「真の能率」と呼びます。
高度成長期や売上がどんどん伸びているときは、成長の陰でムダが見えにくかったのですが、現状ではどの企業も余裕がなくなってきています。このつくリすぎのムダの原因になる大きな要因の1つが、顧客の必要数量を無視して生産高をアップさせる、見かけの能率です。
見かけの能率向上は、つくりすぎのムダにつながリ、在庫が増えるだけです。トヨタでは、生産現場のムダの中で一番重要視し、やってはいけないことです。
トヨタにおけるムダ排除の基本的考え方
ムダの排除が重要であることが分かっても、ムダを見る目、考え方を育てないと、ムダは見えてきません。
ムダが見えないのは、モノの見方が粗いからで、細かく見る技術を身につけると、だんだん見えるようになってきます。
細かく見るのですから、全体を細かく見ていたのでは、効率が良い改善はできません。的を絞リ込む技術も大切になってきます。ムダを排除するための考え方として、作業を
①ムダな作業、②正味作業、③付随作業に分けてみます。
ムダな作業:
付加価値を生み出さず、原価のみを高める作業をいい、最初に改善するところです。手待ちや横移動、工具探しなどが該当します。汗をびっしよりかいて荷物を横移動させても、ムダな作業をしているだけで、評価されるものではあリません。
加工で部品を組み立てる場合には、部品を組み立てる正味の時間だけではなく、組み立て具合を検査したり、段取リ替え、作業の開始・終了の準備や後始末作業時問が必要となります。
正味作業
部品を組み立てるなど、付加価値を生み出す作業のことです。
付随作業
段取り替えなど付加価値は生み出さないのですが、正味作業に付随して実施しなければならない作業です。段取リ替えは限リなくゼロに近づける努力が必要になってきます。
トヨタでは、「部下の仕事を見て、ムダを見つけ、楽に、効率よくやれる方法を見つけたり、部下の動きを働きにかえてあげる」のが管理・監督者の仕事だとしています。
トヨタ7つのムダの排除
トヨタ生産方式では、付加価値を生じないものをすべてムダと考え、ムダを次のように7つに分けています。
つくりすぎのムダ
売れると思つて多くつくることによって人員、設備、材料等に発生するムダをいいます。必要なときよリ早くつくってもムダと考えます。
不良をつくるムダ
不良によリ材料や部品、手直し等の工数、つくるのにかかったエネルギーから発生するムダをいいます。
手待ちのムダ
機械が加工している間見ていたリ、機械が故障して作業ができなかったり、部品待ちでの作業手待ちの状態等で発生するムダをいいます。
動作のムダ
付加価値を生まない動き、ムリな作業、効率の悪い姿勢や動きのムダをいいます。
運搬のムダ
ジャスト・インータイム生産に必要な運搬以外の運搬(横移動、積み替え、長い距離の運搬、不要な回数等)のムダをいいます。
加工そのもののムダ
エ程の進みぐあいや、品質に何の関係もない不必要な加工を必要かのごとく加工することで、発生するムダのことをいいます。
在庫のムダ
材料や部品、各工程間の仕掛品が、多すぎたリして発生するムダのことをいいます。在庫管理費用の損失が発生します。
関連記事:トヨタ生産方式 概念ームダの排除
7つのムダはどこから排除していってもよいのですが、トヨタのように半世紀以上にわたって改善を積み重ねてきた企業とそうでない企業では、職場体質に大きな差があります。
ここでは、問題の多い企業を念頭において、基本的な順序を考えてみます。
STEP1 つくリすぎのムダ
必要なときにちょうど間に合うだけつくるには、「つくリすぎのムダ」を排除する管理の徹底が重要です。
STEP2 不良をつくるムダ
不良が多発するようでは、つくリすぎを押さえることは困難です。不良退治を行い、「不良をつくるムダ」を排除します。
STEP3 手待ちのムダ
手待ちは、ポイントさえ分かれば改善は容易です。「手待ちのムダ」をなくし、人の有効活用を図リます。
ステップ④~⑥は、ムダ取リの着眼点に従って、実施できる部分から行えばよいでしょう。
STEP4 動作のムダ
「動作のムダ」は、工数(人×時間)低減がムダの排除に大きく影響します。しかし、動作分析して、細かいムダを排除しても、他の問題にかき消されますので、注意が必要です。
STEP5 運搬のムダ
「運搬のムダ」は、移動距離、回数等を改善します。
STEP6 加工のムダ
加工のムダは、付加価値を生まないものは、すべてムダと考えます。
STEP7 在庫のムダ
ステップ①~⑤を実施すると、在庫は必然的に低減してきます。6番目までのステップを実施して、在庫がまだ多いようなら、各々のステップどこかに解決されていない問題があるのです。
各ステップを洗い直し、在庫に関係する上位の問題から、いま一度改善が必要になってきます。 これらの問題が山積みしているのに「在庫ゼロ」をめざすと、多くのトラブルが発生します。企業の事情にもよリますが、「在庫のムダ」の排除は、最終的に検討するテーマとするほうがよいでしょう。
つくりすぎのムダの排除
量産効果を狙い、利益を出していた時代は、つくリすぎをあまリ問題にしない企業が多かったようです。トヨタでは、「つくリすぎのムダ」は諸悪の根源として強くいましめており、この中には、「早くつくる」ことも含まれています。
つくリすぎは人、モノ、金を余分に使い、在庫費用や製品がムダになってしまう可能性もあリます。
トヨタ生産方式をめざした場合、自らジャストーインータイムの機能を壊しているようなものです。
よく1人の人が、内示と確定の情報のもとに、週の生産計画を立てている状況に出くわします。通常は、在庫台帳で現状を確認しますが、心配なときは現場まで見に行ったりしています。
歩留りまで、過去の経験から頭の中で計算して計画します。計画変更や歩留り変動が頻発したり、在庫精度が悪いときは、すべて計画を立てる人の力量にかかってきます。職場では神様と呼ばれたりしていますが、よく調査してみると、欠品にならないということに重点が置かれ、つくりすぎにつながる計画を立てているものです。
計画した1日の生産量が終わったら、それ以上つくらなくてよいといっても、職場はなかなかそのように動いてくれません。個人の仕事量のバランスが取れていればよいのですが、早く終了した人は必ずといってよいほど、余つた時間で予定以上つくったり、部品を余分に組み立て、準備しておくなど、見かけの作業を行うものです。
つくリすぎのムダをなくしたい企業は、平準化生産が可能になるように、図のようなつくりすぎを発生する要因をつぶしていく必要があるのです。
在庫の考え方
モノが行きわたってしまうと、つくればつくるほど売れ残リが生じ、在庫が増えることになります。
売れ残つた製品は、企業収益にさまざまな問題をもたらします。在庫品を保管するためには、下図のように余分な費用がかかります。
トヨタ生産方式では、「必要なモノを、必要なときにつくる」という基本思想があリます。
フル稼動してつくれるだけつくるというのではなく、売れるモノだけつくリ、後は生産しないのです。売れて初めて収益につながると考えるのです。
したがって、企業は在庫が少なければ少ないほど、ムダな費用が発生しないことになります。「在庫ゼロ」という考え方があリますが、実際に在庫ゼロという企業を私は見たことがあリません。在庫は取引先を含めて、どこかに必ずあるものです。
在庫ゼロは容易なことではあリませんが、ゼロを目標にして、どこまで減らしていけるかという企業の戦いなのです。
在庫ゼロを一気に実施しようとする企業があリます。実施するには地ならしが必要です。在庫ゼロヘの戦いは、まずは、つくリすぎのムダを発生させる要因をつぶしていくことから始めるべきです。
そのためには、必要な数量を必要なときに生産できる体制を構築することが、重要な要因になリます。
機械故障や段取りに時間を取られるようでは、要望にこたえることができません。
可動率を高める生産保全体制や生産工程は、不良低減、段取リ替え短縮の力量が必要になってきます。
7つのムダに見られる諸問題を、一つ一つクリアしていくと、在庫は徐々に低減していくものです。
在庫ゼロを実現するための前提
在庫ゼロをめざすためには、実施部門の生産に次のような体質、前提条件が必要となってきます。
不良が多発しないこと
不良が多発するようだと生産計画が立てづらく、多発したときの用心のために在庫品を多く持つようになります。
機械故障が頻発しないこと
機械故障が頻発するようだと、計画どおリ製品をつくることができず納期遅れが発生し、顧客に迷惑をかけてしまいます。そうならないためには、製品在庫、仕掛在庫が必要になってきます。
在庫台帳の数値と現物が合つていること
棚卸を実施すると、台帳の数値と現物が大幅に違っている企業があリます。このようなところで在庫を考慮に入れた生産をすると、実際に納入するとき不足になる危険があり、このため多少、多めに持つ習慣がつきます。
種々の在庫管理手法が活用できること
かんばんや在庫管理の基本的な管理手法(経済的発注数量、定量発注方式、定期発注方式、ABC分析、安全在庫数量等)を理解し、在庫を最小にすることができます。
在庫ゼロの注意点
在庫を少なくし、諸問題を顕在化し、現れた問題を改善していくという考え方があります。
図①のようにプール(倉庫)に水(在庫)が多くあるときは、水の中に問題が隠れてしまい、見逃してしまいます。
ところが、図②のように在庫という水が少なくなってくると、隠れていた問題が顕在化してきます。
たとえば、1日の生産計画どおりの生産が終了したら、その時点で生産作業を中止するようにすれば、作業の適正な人員と生産スピードを知ることができ、余剰人員が分かります。
しかし、作業者は、生産稼働の途中で、中止することを嫌がるものです。そこで、生産スピードを落とさず、そのままつくると製品を余分につくってしまうことになるのです。
在庫管理を正確にしないと、余剰人員や過剰在庫は、在庫という水の中に隠れてしまい、問題が見えなくなってしまいます。
不良や機械・設備の故障は、企業として大きな問題ですが、在庫という水が多いと、在庫で対応してしまうため、問題を問題として認識しなくなリ、在庫にかかる諸費用はもちろんのことながら、この問題を認識しなくなる危険な体質が、企業に根づくのです。
一方、在庫が少ないと、プールの中の諸問題が顕在化し、問題が発生した場合、今までのように在庫で逃げることができません。在庫低減を望むのなら、徹底してさまざまな問題解決が必要となります。
したがって、長い年月の間にこのような改善で体質強化を図り、そのうえで在庫ゼロをめざすのならよいのですが、やみくもに進もうとすると、種々の問題が噴出し、かえってトラブルを生じるのです。
在庫ゼロと棚卸
在庫ゼロを実現するために必要なことを説明したように、不良や機械故障の発生は、頻度が多ければ短期間で対応できるものではあリません。
かんばん方式を導入するのなら平準化生産、段取り替え時問短縮のできる体制を整え、可動率を高め、小ロット生産に対応できる生産体制を構築する必要があります。在庫低減は、平準化生産の可能な計画と、きめの細かい管理とにかかってきます。
これらのことは、企業が一つ一つ改善してクリアしていかなければなリません。いずれも、在庫関係部門だけでなく全体で検討していく問題で、相当の努力が必要です。
ところで在庫数量の正確な管理には、「棚卸のとき、在庫台帳の数値と現物が合わないという問題」が解決できていなければいけません。企業は期末になると資材担当者および多くの協力者を得て、棚卸を実施しています。そして、大半の企業が、現物と帳簿上の数値が合わないことに頭を痛めています。
数値が大きくズレているときは、再度、残業や休日出勤をして棚卸を行います。実施には、多大な工数(人×時間)を必要とし、数値がなかなか合わず、泥沼にはまり込んでしまう状況もよくあります。
合わないと、顧客の要求数量を納期までに納めることができるかどうか不安があるため、つい多めに在庫を持ち、対応するという習慣がつくのです。
棚卸の目的(下図)を知ることで、在庫に関係している部門のみでできる問題が分かってきます。在庫ゼロの第1ステップとして、最初に取り組むとよいでしょう。
棚卸の誤差の対処法
棚卸は、現物と帳簿上の数量を確認するために実施します。
ところが、棚卸を実施しても現物と台帳上の数値が一致せず、苦労をしている企業が多く見受けられます。人と時間をかけた結果が数値違いの誤差だらけでは泣くに泣けません。
頻繁に誤差の出る企業は、何の対処もしなければ何回実施しても同じです。誤差の出る原因を究明し、根本から企業体質を変えていかないと、棚卸が有効に活用されることはあリません。
このような企業は、誤差の多い製品に的を絞って、ある期間徹底して誤差の真の原因を追究すればよいでしょう。トヨタの「自働化」は、問題発生現場で機械を止めて、時間差なく問題を追究する考え方です。
在庫誤差問題も同じです。毎日時間差なく原因を究明していけば、真の原因(真犯人)が分かり、解決につながリやすくなるのです。真の原因が分かれば、それほど高度な対策を必要としない場合が多いものです。
下図は、誤差の多い部品の人出庫の在庫状況を、7月15日から7月31日にわたり、徹底してその原因を追跡した事例の一部です。
実在庫数とコンピュータ上の在庫数を毎日調べ、その誤差の原因について、毎日時間をおかず追跡したものです。
現物を毎日確認し、コンピユータ上の数値との違いを究明するわけですから、大変な努力を必要とします。しかし、このくらいの期間徹底して追跡すると、その企業が持っている体質の悪さ、誤差の原因の大半は洗い出されるものです。
事例の企業における在庫のさまざまな問題点は、この追跡結果に集約されていました。
後はこのような問題が生じないように、現物と伝票および連絡の基準をつくり上げればよいのです。問題の多い企業は、一度事例のような追跡の仕方をして、問題点を洗い出してみる必要があるでしょう。
正確に実施すれば、どこかの時点で現物在庫と台帳とコンピュータ在庫は一致するのですが、今回のように、①量産前試作品扱いで、②情報が仮伝票だったり、③納人数量も品質基準が明確でないため、完全に合格と思われるもののみ出荷とした場合、現物の動きに比べ、情報はどんどん遅れていきます。
また、情報(伝票等)と現物の動きに関係する部署が多くなるほど、時間差が生じ、情報と現物の間に誤差が生じる可能性が大きくなります。
事例の企業では、7月16日に仮伝票(7/15、AH社へ納人した83個の製品に対し、OKの返事をもらっていないため)で523個の製品が入荷したため、17時の段階では623個の誤差が発生しました。
そして、7月23日の10時には現物の動きに情報が追いついたため、在庫誤差はなくなりました。しかし、その日の午後から誤差が生じはじめました。このような在庫精度では、在庫ゼロは実現できません。
この事例から、あらわになった下図①のような問題点をクリアしておく必要があリます。在庫が合わず自社の問題点が分かっていない企業は、下図②のような在庫誤差追跡表で問題を洗い出してみてください。
参考文献:日本のモノづくり トヨタ生産方式の基本としくみ 著作者:佃 律志