初心者、新入社員向けのワーク・サンプリング法の入門ガイドとして作成しました。
ワーク・サンプリング法(Work Sampling Method)は、統計的手法を用いて、主として、作業中に不規則、偶発的に発生する遅れや中断を含めた標準時間の設定を行う方法です。
ワーク・サンプリング法を活用して工場のムリ・ムダ・ムダを取り除き生産性を向上させてください。
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動画 ワークサンプリングによる改善の絞り込み
稼働分析の代表的な手法であるワークサンプリングの実施方法と、作業の頻度の観測結果からどのように改善対象を絞り込んでいくかを解説します。
ワークサンプリング法(WS法)とは?
WS法はIEの中で稼働分析の手法として用いられる。稼働とは『稼げる人』『稼げる設備』の動きである。
稼げる作業と稼げない作業を分析し、どれだけの時間をかけているかを定量的に測定し分析し、生産システムの改善を図る。
稼働状況は二つに大別される。
1)稼働分析
稼働分析とは一日にわたって人、設備の稼働状況を観測し、その活動内容の時間的構成比率を統計的に推測し、把握する手法である。
稼げる作業と稼げない作業を分析し、どれだけの時間をかけているかを定量的に測定し分析し、生産システムを改善する。
2)WS法の特徴
WS法とは一定の時間内に人、機械を何回か瞬間的に確認して統計的の稼働状況を確認する方法である。
具体的にいえば100回観測中80回稼働状況にあった場合、稼働率を80%と推定する。
母集団から一回の仕事をサンプリングしてそのサンプルから母集団を推定するため、連続時間観測法に比較 して手間がかからず、職場全体の稼働状況を業務上、差し支えない精度で把握できる。
3)WS法の進め方
4)ワークサンプリング事例:
稼働分析
ワークーサンプリング法の基本
仕事の量を把握するとき、大きく分けると、「連続時間分析法」と「ワークーサンプリング法」の二つがあります。
ワークーサンプリングとは、人の動き、機械の稼働などについて瞬間的な観測を数多く、繰り返し実施することで、観測対象の状況を統計的に推測するものです。長所と用途は、次のとおりです。
ワークーサンプリングの長所
①つきっきりで観測しないでよいので、仕事の合間に観測でき、疲れません。
②一度に多くの対象物が観察できます。
③人を観測するとき、被観測者に特別の意識を与えないですみます。
④分析の方法が簡単なため、誰もが実施できます。
⑤精度を統計的に知ることができます。
ワークーサンプリングの用途
①作業量の適正を知ることができます。
②低稼働率の原因を把握し、改善します。
③標準時間や余裕率を求めることができます。
作業者と機械の関係を検討するのに役立ちます。
直接作業の標準化をするのに役立ちます。
職場の管理上の問題点を把握するのに役立ちます。
下図は7人の作業者の稼働状況をワークーサンプリング法で調べ、連続時間分析法と比較したものです。
ワークーサンプリングの手順
作業工程を1時間ごとなど決まった時間に観測し、その結果から各工程に必要な時間を推測する方法がワークーサンプリング法です。つまり、統計のサンプリングを活用した分析法です。
基本的な手順は下記のとおり。
分析の目的を明確にする
何を調べたいのか、目的を明確にして、データ分析表を準備します。
実際に付加価値を生み出す作業をしているかどうか調べたいのなら、付加価値を生み出す作業と価値を生み出さない作業を前もって定義づけておく必要があります。通常は、作業項目別の作業割合を目的にします。
観測する対象と範囲を決める
たとえば、物流倉庫のすべてが対象ならよいが、問題とする対象が物流倉庫の一部でしかないのに全体を分析す為のなら、それは分析のムダです。対象は目的によって変わってきます。
観測する項目を決める
10人の作業者の作業項目別割合を知りたいのなら、対象作業者の分析したい作業が項目になリます。
機械を分析するとき、機械が稼働しているかいないかを分析するのなら、項目は稼働、非稼働の2つです。
観測数を決める
観測数は最初に100~300のデータ(サンプル)をとり、目的とする項目の所要精度データの数を知りたいのなら、統計的に処理して、不足したデータ分だけさらに分析を増やしていきます。
観測回数を決める
仮に必要なデータ数を1000とした場合、分析対象範囲に10人の作業者がいる場合、1回で10のデータ(サンプル)が取得できることになリます。1000のデータを揃えるには、100回(1000÷10人=100回)の観測回数が必要になります。
観測期間を決める
作業の負荷変動を見ながら、観測(分析)期間と観測(分析)時間を決めます。ここでは、観測期間を5日間とします。
1日の観測回数を決める
観測期間は5日間と決まっています。100回の観測回数が必要なので1日の観測回数は20回100回÷5日=20回/日)となります。
観測時刻を決める(ランダム時刻表による場合)
ランダム時刻表には種々のものがあります。下図は1日25回用の一部です。初日に1番、2日目に2番というように活用していけばよく、下図ははランダム時刻表の2番を使用しています。
観測経路を決める
観測経路は、多くの観測対象が一目で把握できる地点を選びます。しかし、倉庫では障害物が多く、一目で把握することは難しいものです。経路を決めたら、その経路を歩いていき、対象物が目に入ったら、最初に把握した項目作業をデータ(サンプル)として記録する。
観測の準備する
観測用紙に必要事項を記入し、準備をします。
データ取りの時に、10人を対象にした場合、個々の人をA、B、C……Jのように識別しておけば、改善の時に更に有益な情報になりますので、目的を考えた工夫が必要です。
ワークサンプリング法の計測手法
ワークサンプリング法(Work Sampling)は、作業時間の分析に用いられる統計的な手法で、作業者や機械の活動状態をランダムまたは一定の間隔で観察し、各状態の発生頻度をもとに時間配分を推定するものです。以下に、ワークサンプリング法の計測手法をわかりやすく説明します。
ワークサンプリング法の基本的な計測手法
目的の明確化
何のために観察するのかを明確にします(例:作業の無駄を見つけたい、生産性を向上させたいなど)。
観察項目の定義
作業状態を分類します。例:
主作業(実際の作業)
副作業(補助的な作業)
手待ち時間(作業ができない待機時間)
移動、休憩など
サンプル数の決定
統計的に有意な結果を得るために、必要な観察回数(サンプル数)を計算します。
計算式の例:
n=(Z2⋅p⋅(1−p)E2)n = \left( \frac{Z^2 \cdot p \cdot (1 – p)}{E^2} \right)
nn:必要な観察回数
ZZ:信頼係数(例:95%なら1.96)
pp:期待される発生確率(事前の推定)
EE:許容誤差(例:±5%なら0.05)
観察スケジュールの設定
一定間隔(例:10分ごと)またはランダムな時間に観察を行います。
ランダム化することで偏りのないデータ収集が可能です。
観察と記録
各サンプリング時点で、作業者や機械の状態を観察し記録。
たとえば、10秒観察して「主作業をしていた」と記録。
データ集計と分析
各状態の観察数を合計し、全体に占める割合を算出。
例:
主作業:70回
副作業:15回
手待ち:15回
合計:100回
→ 主作業率は70%
改善提案へ活用
時間の使われ方を可視化し、非効率な部分(手待ち時間が多いなど)を特定して改善へ。
ワークサンプリング法の利点と注意点
利点
長時間の継続観察をせずに全体の傾向がわかる。
複数人や機械を同時に分析可能。
コストが比較的低い。
注意点
精度は観察回数に依存。
短時間の作業や頻度の低い作業には不向き。
状態の定義を曖昧にしないことが重要。
オンラインでのワークサンプリング
オンラインでのワークサンプリング(在宅勤務やリモートワーク環境など)も可能で、以下のように工夫して実施できます。従来の現地観察とは違い、「デジタル環境での観察・記録」を行うのが特徴です。
オンラインでのワークサンプリング手法
目的の明確化
例:
リモートワーク中の業務時間の内訳を知りたい
オンライン会議やチャット対応の割合を把握したい
集中時間 vs 雑務時間の比率を見たい
観察方法の選択
方法A:自己記録(セルフレポート)
従業員自身が、定期的に現在の作業状態を選んで記録(例:ポップアップで「今何してる?」)
ツール例:
Googleフォーム+リマインダー通知
Slackのボット
Excel+マクロ
方法B:ツールによる自動記録
パソコンのアクティビティを自動的に記録し、後でカテゴリに分けて分析。
ツール例:
RescueTime、Toggl Track、ManicTime、Time Doctorなど
各アプリやWebサイトの使用時間を記録
方法C:ランダム・スクリーンショット(注意が必要)
業務PCの画面をランダムなタイミングでキャプチャ(プライバシーや同意が必要)
管理目的で導入する場合、透明性・説明責任が重要
作業カテゴリの定義
たとえば、以下のような分類が使われます:
作業カテゴリ | 例 |
---|---|
主作業 | ドキュメント作成、設計、開発、分析など |
コミュニケーション | Zoom/Teams会議、チャット対応、メール |
手待ち | 承認待ち、相手の返信待ち |
雑務 | タスク整理、ファイル管理、システムチェック |
休憩 | 離席、昼食、休憩など |
観察タイミングの設計
ランダム抽出または**一定間隔(例:30分ごと)**で記録。
自己記録ならリマインダー付きで通知。
サンプル数が多いほど精度が高まります。
データの集計と分析
エクセルやBIツール(Google Data Studio、Power BIなど)でグラフ化。
パターンやボトルネックを発見できます。
注意点(オンラインならでは)
注意点 | 対策 |
---|---|
プライバシー問題 | 同意を得る・記録範囲を明確にする |
記録の正確性 | 自動記録や定期リマインドで補助 |
バイアス(意識されると行動が変わる) | ランダム観察・長期観察で平均化 |
お手軽に始めたい人向け:ツール例
ツール名 | 特徴 |
---|---|
Toggl Track | タグ付きで時間記録、簡単なUI |
RescueTime | 自動でアプリやWeb使用時間を記録 |
Googleフォーム+Zapier | 自作の記録システムを構築可能 |
ワークサンプリング法の効果的な活用法
ワークサンプリング法は、手軽かつ統計的に信頼性のある方法で作業実態を把握できるため、業種や業務を問わずさまざまな場面で活用できます。以下に、効果的な活用法をいくつか紹介します!
業務のムダ・非効率の「見える化」
作業の中で、手待ち時間や無駄な移動、非付加価値作業がどの程度あるかを把握できます。
例:製造現場で、機械の待機が多い → 保守スケジュールや作業配置の見直しへ
人員配置の最適化
各作業カテゴリに費やされる時間の割合を元に、必要な人員数やスキルバランスを検討。
例:受付業務で、ピーク時以外の稼働率が低い → シフト再構成
業務改善・工程改善のヒントを得る
一定期間にわたって観察し、改善活動の前後で比較することで、効果測定にも使える。
例:「マニュアル変更後に主作業率が10%アップ」など
標準時間・生産性指標の算出
特定の業務の主作業率から、実作業時間を推定し、標準作業時間を設計するベースに。
例:主作業が80%なら、1時間で48分が有効作業 → これを基準に業務設計
教育・研修の効果測定
新人研修後、作業割合がどう変化したかを比較して、教育の有効性を確認。
例:初期は手待ちが多かったが、1か月後には主作業率が向上
リモートワーク環境での業務実態把握
オンライン環境下でも活用でき、業務バランスの可視化や集中時間の把握などに有効。
特に、過剰な会議時間やチャット対応時間の多さを見つけて調整可能
複数現場・部署の比較分析
異なる部署や工場間での業務の進め方・時間配分の違いを比較し、ベストプラクティスを導入。
例:「A拠点の方が主作業率が高い → なぜ?」という分析につながる
継続的改善(PDCA)サイクルの一部として活用
1回の調査で終わらせず、定期的に実施して傾向をモニタリング。
効果的なKPIモニタリング手法にもなります。
活用を成功させるコツ
ポイント | 解説 |
---|---|
🎯 観察目的を明確に | 単なる「割合を知る」ではなく、「どの課題を解決したいか」を先に決める |
📊 適切なカテゴリ分け | 作業分類が曖昧だと分析精度が落ちる(具体的に分ける) |
📅 継続的な記録 | 単発ではなく、トレンドを見るために定期実施が望ましい |
🤝 協力体制の構築 | 観察される側との信頼関係や目的の共有が大切(監視と思われないように) |
ワークーサンプリングの分析事例
倉庫での”荷扱い時のムダ”、”事務処理上のムダ゛について、実際にどのくらいのムダが発生しているかを知るには、各々の作業にどのくらいの時間がかかっているかを分析する必要があります。
倉庫は広く、棚や資材等の障害物があり、1箇所で時間分析をするには不向きな場所です。このようなときに力を発揮するのが、ワークーサンプリング(W.S)です。
A倉庫では10人が作業をしているが、どの作業にどれだけの時間がかかっているか不明でした。そこで、まず、どんな作業があるのか前もって調べ、左ページの表のように”物流倉庫でのワークーサンプリング観測データ表”にNo1(荷造り:小物)~No24(その他)までの項目を記入しました。
ワークーサンプリングの手順に従い、200のデーターを得ることができました。データの割合を見ると、No3のフォークの空移動(7%)、No12の製品探し(1・5%)、No16、No17の仕事待ち(計:4・5%)など、一目でムダという作業があるのが分かりました。
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また、作業をしていてもNo1の荷造り(小物)は、作業量からすると6%くらいでよいはずなのですが、11%と倍近くの時間がかかっていることが分かりました。
200のサンブルでは不安であったため、さらに1700の観測データを追加し、ワーク・サンプリングの精度を上げ、納得いく数値で改善に着手しました。精度とデータ数(サンプル数)の関係は、統計的に容易に計算できます。
ワークサンプリング法の将来、未来展望
ワークサンプリング法は、古典的な手法ながらも今なお進化中で、特にテクノロジーとの融合によって未来に向けて大きな可能性を持っています。以下に、ワークサンプリング法の将来像や進化の方向性をまとめてみました。

ワークサンプリング法の将来、未来
AI・機械学習との連携による「自動化ワークサンプリング」
カメラ映像やセンサー、PCログなどをAIが解析し、作業状態を自動判別
目視観察や手動記録が不要になり、省力化・客観化が進む
例:工場内の映像からAIが「加工中・移動中・手待ち」などを自動分類
ウェアラブル×ワークサンプリング
スマートウォッチやARグラスなどから得られるデータで作業状況を推定
心拍や姿勢、移動履歴などを組み合わせて、身体的負荷や集中状態も評価可能
リモート&デジタルワークへの対応強化
デジタルワーク(例:PC作業、チャット、オンライン会議)にも対応したオンライン型ワークサンプリングが主流に
ブラウザやアプリ利用ログ、タイピング速度などをもとに集中作業/雑務/コミュニケーションなどを分類
リアルタイム・フィードバックの実現
観察結果をリアルタイムで本人やマネージャーにフィードバックし、作業中に気づきや改善を促す
例:手待ち時間が長く続くと通知され、別作業への切り替えを促す
多職種・非定型業務への適用範囲拡大
看護師、営業、研究者、在宅ワーカーなど、定型化しにくい仕事にも対応
行動の意味(意図)を文脈から判断できるAIとの組み合わせで、柔軟な解析が可能に
倫理・プライバシーとの両立
モニタリングへの懸念もあるため、透明性と自律性を重視した設計が求められる
「監視」ではなく「成長支援ツール」としての位置づけが重要
人間中心の働き方改革ツールへ
生産性だけでなく、ストレス・疲労・ワークライフバランスの改善指標としても使われる
エンゲージメントやウェルビーイングとセットで分析されるようになる
「観察」から「理解」へ、さらに「支援」へ進化するツール
単なる作業割合の分析ではなく、
✅ 生産性
✅ 心理的な負荷
✅ モチベーション
✅ 組織課題
などを可視化し、改善につなげる未来型ツールとして発展していくでしょう。
まとめ
ワークサンプリング法は作業時間、稼働率などを推定する手法の一つで、あらかじめ設定した回数、ある瞬間の現場の状況を観察・観測し、結果を統計的に処理するので観測した結果は統計上の誤差を含んでいます。
よって設定回数をよく吟味して精度が高く、且つ 時間もあまりかからないように検討して工場等の生産性の改善に活用してください。
最近ではスマホで手軽にワークサンプリング法ができるアプリもあります。
ワークサンプリング法 アプリ じょぶたん
スマホで定期的に計測対象者の名前と作業項目ボタンを順番に押していくだけで複数名の作業時間の記録が同時にできます。ストップウォッチも紙も不要です。この時間はこの作業で何名という人数での記録もできます。
*工場のIE手法については下記の文献に色々な活動事例等が更に詳細に記載されています。
参考文献: